
パデルという競技の魅力を、技術や戦術だけで語ることはできないのかもしれません。人との距離が自然に縮まり、場の空気に迎え入れられること。その心地よさが、いつの間にか人生の選択そのものを変えていくこともある。
学生時代まで打ち込んできたテニスを離れ、会社員として働いていた頃。偶然のように誘われた競技との出会いが、日本一、そしてスペインへと向かう道につながっていきました。
未知の競技に、惹かれたわけ

【富田一輝(とみた・かずき)】
プロパデルプレーヤー。小学校から大学までテニスに打ち込み、就職後に出会ったパデルに惹かれ競技の道へ。日本ランキング1位を経てスペインへ渡り、現在は世界を旅するようにプレーを続けている。プレミアパデル本戦出場を目標に、競技を通して誰かの未来を少し明るくすること、そしてアジアでのパデル普及も見据えて活動中。
佐藤:まず、パデルを始めたきっかけを教えてください。
富田さん:もともと小学校から大学までは、ずっとテニスをしていました。就職してからいったん競技から離れていたのですが、昔同じテニスクラブだった先輩にパデルを勧められたことがきっかけで、競技の存在を知りました。ですが、知らない競技をするのがあまり好きじゃなくて、最初は断わりました。
佐藤: そこからどのように選手の道へ?
富田さん: 一度だけでいいから、見に来てほしいと言われて、大会を見に行ったんです。そこで衝撃を受けましたね。体験してみたら、楽しいのと同時に、全然うまくできなくてすごく悔しかった。なんでできないんだろうって。その感覚が入口でした。
佐藤: 面白さより先に、悔しさが残った。
富田さん: そうですね。最初から大きな目標があったわけではなくて、できないことに引っかかった、という方が近いです。そこから、気づいたらのめり込んでいましたね。
勝敗より先に、空気があった

佐藤: 富田さんが、そこまで惹かれた理由は何だったんでしょう。
富田さん: 僕は根がシャイな性格なんです。コートに行っても、一人で端にいるようなタイプで。でも、当時パデルをしていた人たちが、自然に輪の中へ入れてくれた。教えてくれる人がいて、声をかけてくれる人がいて。その感じが、すごく良かったんです。
佐藤: 競技そのものだけではなかった。
富田さん: はい。パデルという競技そのものというより、空気感と空間が好きだったんです。プレイヤー同士でコミュニケーションを取らないと成り立たない競技でもあるので、無意識のうちに距離が縮まっていく。そこが、大きな魅力に映りました。もちろんプレー自体も面白いところは沢山あります。壁を使うこともそうだし、ただ返すだけじゃなくて、どう相手を動かすか、どう崩すかもある。でも、最初に残ったのは、空気感でした。
日本一の先で、安定を手放した

佐藤: 競技開始から半年で、日本ランキング1位まで行かれたんですよね。
富田さん: 振り返ると不思議なんですけど、楽しく続けていたら日本ランキング1位になっていました。最初は誘ってくれた人とペアを組んでいて、その後も声をかけていただいた方とペアを組んだりしながら。ペアにも恵まれた中で、その流れの先に日本ランキング1位がありました。
佐藤: そこで、次を考えるようになった。
富田さん: はい。日本で1位になった時に、次の目標は何だろうと考えました。YouTubeでスペインのツアーを見ていたら、ここにチャレンジしてみたいと思ったんです。でも同時に、この環境のままでは無理だともわかっていました。
仕事を続けながらでは届かない、と。
佐藤: 休職ではなく、退職を選ぶことになる。
富田さん: そうです。最初は仕事を辞めたくなかったので相談したのですが、難しかった。だから辞めてパデルに全てをかけることにしました。
ただ、辞めた時点で何かが決まっていたわけではないんです(笑)。サポートもないし、お金もないし、行く場所もはっきりしていなかった。
佐藤: それでも、止まらなかった。
富田さん: 行かない選択肢はなかったですね。SNSを使って拙いスペイン語で発信して、支援してくださる方を探しました。しばらく何も見つからなかったんですけど、スペイン・バレンシアの方が声をかけてくれて、まずは三か月住める場所を用意するから来てみたらどうか、と。保証されていたのは、その三か月だけでした。
佐藤: 怖さはなかったですか。
富田さん: もちろんありました。でも、三か月で終わるかもしれないとしても、行かなかった後悔の方が大きいと思ったんです。なくなってもいいから行こう、という感覚でした。
勝つためだけでは、続かなかった

佐藤: 今、ご自身の活動を言葉にするとしたら、どう表現しますか。
富田さん: 世界中を旅しながら、パデルと僕自身を通して、少しでも誰かの明るい未来につながれば、という思いで活動しています。もちろん試合は頑張るし、結果にもこだわりたい。でも、成績だけがすべてとは思っていないんです。旅していくような感覚で、競技を続けているところがあります。
佐藤: 目標として見ている場所もありますか。
富田さん: あります。プレミアパデルの本戦に出ることです。今年から来年にかけては、まず予選にしっかり入っていきたい。自分が競技を続けることで、アジアでもパデルを盛り上げていきたいです。
※プレミアパデル:国際パデル連盟(FIP)のもとで開催される、世界最高峰のプロパデルツアー
佐藤: そうやって移動や試合が続く中で、自分を整えるために意識していることはありますか。
富田さん: ありますね。なるべく、自分の感覚をしっかりと戻せる状態でいたいと思っています。試合前や練習前に切り替えたい時もそうですし、終わったあとにすっきりして、次に向かえる気持ちも大事にしています。
海外に行っても、香水などを見るのが好きで。
香りがあるだけで少し気分が上がるし、普段の自分に戻れる感じがするんです。
Leiの Kuon Perfumed Moisturizing Shampoo を使っているのですが、気分を変えたい時によく使います。練習や試合の後に頭をすっきりさせたい時や、1日の初めにスイッチを入れたい時なんかに。
佐藤: 切り替えの装置のようなイメージでしょうか。
富田さん: そうですね。練習後もすぐシャワーを浴びて、すっきり切り替えたいタイプなので、香りのあるものは自然と手に取ります。Kuon Perfumed Moisturizing Shampoo も、その流れの中にあります。使った後、すっといつもの自分に戻れる感じがするんです。
編集部ノート
まっすぐ進んでいる人ほど、直線的に生きているわけではないのかもしれません。遠くへ向かいながら、そのたびに自分の感覚へ戻る。富田さんの言葉には、そんな動きがありました。
勝つことを目指しながら、勝つことだけに閉じないこと。
移動しながら、出会いながら、それでも続けていくこと。
香りもまた、その流れの中にあるように思います。
気分を足すためではなく、自分に戻り、もう一度前を向くための、小さな所作として。
富田さんの切り替えのきっかけ
※パデルは、壁を使ってプレーするラケットスポーツ。ヨーロッパや中南米を中心に広がり、日本でも競技人口が増えています。
取材後の2026年6月2日、富田さんは「20th Asian Games Aichi-Nagoya 2026」にて、【第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)】の出場をかけた日本代表選考会で優勝。日本代表の座を勝ち取りました。
富田さんInstagram:https://www.instagram.com/padel_tomikazu/
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