
2010年、南アフリカ。安英学さんは、朝鮮民主主義人民共和国代表としてサッカーワールドカップのピッチに立ちました。
安さんの言葉に強く残っていたのは、勝敗や成功の話だけではありません。仲間を大切にすること。次の世代へ渡していくこと。そして、自分が立ってきた境界線上から、人と人をつなぐこと。
現役を終えた今、安さんはサッカーを通じて、子どもたちと向き合い続けています。
自分にしかできない役割を選ぶ

【安 英学(アン・ヨンハ)】
岡山県倉敷市出身。Jリーグ、韓国Kリーグなどでプレー。2010年FIFAワールドカップ南アフリカ大会に朝鮮民主主義人民共和国代表として出場。引退後はサッカースクールを経営し、次世代の育成に取り組む。
佐藤:まずは、現在の活動について教えてください
安さん:東京と横浜で、小学生を対象にした「Junistar Soccer School」というサッカースクールを運営しています。まだ現役としてプレーしている2013年に立ち上げました。
ただサッカーを教えるだけでなく、自分が経験してきたことを、次の世代に渡していく場所として考えています。
佐藤:引退後は、クラブスタッフや指導者としてチームに残る選択肢もあったと思います。
安さん:ありがたいことに声をかけていただくこともありました。ただ、自分は引退した後に、自分にしかできないことをやっていきたいと思っていたんです。
プロクラブのコーチや監督は、僕じゃなくてもできる。
僕より優秀な方もたくさんいます。では、自分がやるべきことは何なのか。そう考えた時に、サッカースクールが一つありました。
子どもたちと一緒にボールを蹴っていると、自分が子どもの頃にサッカーを始めた時のことも思い出すんです。技術を教えるだけではなくて、サッカーを通じて受け取ってきたものを、少しでも伝えていけたらと思っています。
全力で楽しむ、という姿勢を伝える

佐藤:子どもたちを指導する際、大切にしていることは何ですか?
安さん:まずは、サッカーを楽しむことです。でも、ただ楽しくプレーするのではなく、全力を出すこと、その中で試行錯誤するプロセスを楽しむ、ことを大切にしています。失敗してもいいし、負けてもいい。
けれど、最後まで諦めないこと。勝つために全力を尽くすこと。そして、仲間を大切にすること。
サッカーは、一人ではできません。仲間たちのおかげで楽しめる。だから、仲間を大事にしようということは、いつも子どもたちに伝えています。
勝敗の先に、残るもの

佐藤:勝つことが一番に求められる世界を経験した上で、なぜ「仲間を大切にする」という言葉に辿り着いたのでしょうか。
安さん:プロの世界なので、勝たなければ評価されません。ただ、それでも十年以上プレーする中で、チームメイト、スタッフ、サポーターの方々が、本当に自分を大切にしてくれました。
負けても、全力を尽くした選手に拍手をしてくれる人がいた。倒れてもすぐ立ち上がって、また食らいつく姿に声援を送ってくれる人がいた。
結果は大切です。
でも、それ以上に大切なことがあるんだなと、肌で感じてきました。
世界の距離を、ピッチで知る

佐藤:2010年のワールドカップに初めて出場した時の気持ちを教えてください。
安さん:まず、子供の頃から憧れていた夢の舞台に立てたことに感無量でした。
在日コリアンとして日本で生まれ育ってきて、本国の選手たちの名前や顔も知らないところから代表を目指しました。その自分が、同じユニフォームを着て、ワールドカップのピッチに立った。
初戦の相手はブラジル代表でした。僕はブラジル代表が一番好きだったので、そのチームとワールドカップで対戦できたことは、今でも忘れられません。
佐藤:同じピッチに立って、何を感じましたか。
安さん:テレビで見ているだけだと、もう手も足も出ないような差に見えるんです。でも実際にやってみると、通用する部分もある。ただ、明らかな差もある。
ブラジルは、一瞬でもマークを外してしまうと、必ずチャンスパスを通してくる。そして、チャンスは確実にゴールにつなげてくる勝負強さがありました。前半はなんとか守れていても、後半にギアが上がった時の迫力は、今まで体感したことのないものでした。
彼らと同じ舞台に立ち、同じ環境に身を置かないと、その差は縮まらないと痛感させられましたね。
ワールドカップは、夢の舞台であると同時に、怖さもある場所でした。ブラジル戦では粘り強く戦えましたが、次のポルトガル戦では大敗してしまいました。
喜びと怖さの両方を味わったことで、あの舞台の大きさを知った気がします。
境界線上から、人をつなぐ

佐藤:日本で生まれ育ち、朝鮮学校で学び、朝鮮民主主義人民共和国代表としてワールドカップに出場し、韓国Kリーグでもプレーされています。その感覚は、どういうものなのでしょうか。
安さん:僕は在日コリアンで、朝鮮籍です。ただ、今の朝鮮民主主義人民共和国の人と同じかと言われたら、違うと思います。日本で生まれ育っていますし、韓国人でも日本人でもない。生まれも育ちも日本。でもルーツは朝鮮半島にある。だから、どこか一つに簡単に当てはまる存在ではないんです。
境界線上にいる自分たちだからこそ、できる役割があると思っています。どちらか一方に偏るのではなく、それぞれの立場に立って考えられる。そのあいだで、人と人をつなぐ役割をしていきたいです。いつか日本、朝鮮、韓国の仲間たちと、サッカーを通じた交流の場もつくれたらと思っています。
佐藤:最後に、LeiのRoom Sprayも使ってくださっていますよね。香りはいかがですか。
安さん:Sea Breeze Oudを使っています。爽やかな香りですよね。練習後やトレーニング後に、シュッとしています。ひと汗かいた後に使うと、切り替えになるというか。
スイッチがオフになって、リフレッシュできる感覚になるのが気に入っています。
編集部ノート
安さんの話を聞いていると、サッカーは勝敗を決める競技でありながら、それだけでは終わらないものだと感じました。ボールひとつで人が集まり、世代や立場を越えて、言葉になる前の距離が少し近づく。
境界線上にいることは、どこか一つに属しきれない難しさでもあります。けれど同時に、複数の場所へ耳を澄ませることができる位置でもある。ひと汗をかいたあと、空間に香りをひと吹きする。
その静かな切り替えの中にも、安さんが大切にしてきた「人と人のあいだ」が、少しだけ見える気がしました。
安さん Instagram:https://www.instagram.com/anyeonghag17/
Junistar Soccer School Instagram:https://www.instagram.com/junistar_official/
Junistar Soccer School HP:www.junistar.net/soccerschool
安さんの気分を切り替えるRoom Spray
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