
千葉県を拠点に、日本古来の発酵による藍染に取り組む「NORABI」。衣服や生活道具の染色、作り手との協働を通して、藍から生まれる色を現代の暮らしへとつないでいます。
代表の品田彩来さんは、かつてヨーロッパなどでプレーしたサッカー選手でした。スペインのビジャレアルCFに所属していた2020年1月、シーズンの途中で現役を退きます。
次の仕事を決めずに帰国し、やがて出会った藍染。
遠く離れて見える二つの仕事は、品田さんの中でどのようにつながっているのでしょうか。NORABIの現在から、そこへ至るまでの選択、これからについて伺いました。
形になる前の仕事

【品田彩来(しなだ・あやき)】
藍染師、NORABI代表。アメリカの大学卒業後、スウェーデン、フィンランド、スペインでサッカー選手として活動。2020年に現役を引退し、発酵による藍染を学ぶ。現在は千葉を拠点に制作を行っている。
佐藤:NORABIでの活動について教えてください。
品田さん:衣服や生活道具を染めて商品を作るほか、ブランドやデザイナーさんから相談を受け、一緒に商品を作ることもあります。
「こういうことはできますか?」と声をかけてもらい、まず試してみる。染めたものを見ながら考え、手を動かす中で仕事が広がってきました。
藍って面白くて、同じ材料を入れても、同じ状態になりません。藍は発酵しているので、温度や季節、土地によって関わり方が変化するんです。
基本を学んでも、今ここでは同じようにならない。
やりながら、その時使う藍を知っていくんです。
正確に管理しすぎず、若干の適当さが必要な時もあります。決めた手順ではなく、その日の藍を見ながら、今日はどうするかを考えながら進めて行きます。
祝祭のあとに残ったもの

佐藤:現在の藍染の仕事に至るまでを振り返ると、最初の転機はどこにありましたか。
品田さん:サッカーを辞めたことだと思います。でも、その時は藍染をしようとは全く考えていませんでした。
選手としては、むしろ一番良い時期でした。怪我もなく試合に出ていて、2019年最後の試合では首位のチームに勝ち、自分も得点した。競技だけを見れば、辞める理由はなかったと思います。
ただ、以前から、気候変動や社会問題を知るほど、サッカーだけをしている自分に違和感があって。女子サッカーが発展する一方で、世界では別の問題が膨らんでいる。その流れに乗り続けることを、楽しいと思えなくなっていました。
佐藤:その違和感が、決断に変わった出来事はありましたか。
品田さん:2019年の年越しに、バルセロナのスペイン広場へ行きました。その年の社会問題を映す映像が流れ、最後に映ったのはアマゾンの森林火災。
その直後に花火が上がり、みんなが新年を祝う。でも私は、これを見て「ハッピーニューイヤー」とは言えないと思った。それまで自分の中にあったものが、そこで切れたような感覚がありました。
そこから2週間ほど自分の人生を見つめ直したんです。その期間中にも試合があり、勝つことが出来たのですが、その時もあまり喜べなかった。その時に相談した友人の「またやりたくなれば戻ればいい」という言葉に救われ、クラブへ辞めたいと伝えました。
青という入口

佐藤:サッカーを離れたあと、最初はどんなふうに過ごしていましたか。
品田さん:アメリカの大学院へ行く準備をしていましたが、コロナで日本にいる時間ができました。その頃、祖母の手伝いに行き、「玉ねぎの皮でも布を染められる」と聞いたことから、草木染めに興味を持ちました。
佐藤:そこから、藍染へ向かったのはどんな流れだったのでしょう。
品田さん:なぜサッカーを辞めたのか、何が好きなのか、これからどんなことに関わりたいのか。自分の中にあるものを、一度全部書き出したんです。
環境、農業、繊維、アート、大学で学んだグラフィックデザイン。分野は違っても、自然から生まれるものを暮らしに取り入れたいという感覚はつながっていました。
それを眺めていた時、ふと「青がいいかもしれない」と感じたんです。
青なら、背景を知らなくても色として手に取ってもらえる。デニムのように年齢や性別を限定せず、日常にも入っていける。いろいろな関心を一つにできるもので、色としての青が浮かび、藍染を調べ始めました。
身体に残る判断

佐藤:今の仕事と、サッカーをしてきた経験には、つながる部分がありますか。
品田さん:変化の中で判断し続ける感覚ですかね。
サッカーは、ミスが起きることを前提に続けていく競技です。失敗しても、その場で止まってはいられない。すぐに状況を見て、次のプレーを選ばなければいけません。
海外でプレーしていた時も、言葉をすべて理解してから動けるわけではありませんでした。周りの選手を見ながら、まず動いてみる。違っていたら、その場で直していく。
その繰り返しです。
藍も、昨日と今日で状態が違うことがあります。思っていた色にならない時もある。
でも、分からないから止まるのではなく、今どうなっているかを見て、次に何をするかを考える。
広げること、残すこと

佐藤:今後NORABIを、どのように続けていきたいですか。
品田さん:工房を手伝ってくれる人が加わり、以前より作れる体制が整ってきました。もう少し多くの人に届けられる形をつくりたいと思っています。
ただ、たくさん作り、売ることだけが成長ではありません。藍の状態を見ながら手を入れ、一緒に形を探す時間は、これからも大切にしたい。
続けるには仕事として成り立たせる必要がある。でも、作る量だけを基準にはしたくありません。大切なものを保ちながら、どこまで広げられるのか。NORABIなりの形を作っていきたいです。
空気を入れ替える時間
佐藤:普段からお香をよく焚かれるそうですね。どのような時に使っていただいていますか?
品田さん:部屋の空気を少し変えたい時に、窓を開けながら焚いています。Sea breeze Oudは、海の近くで暮らしている今の自分に自然と馴染む香りで、気に入っています。
編集部ノート
答えを出す前に、目の前の状態を見る。
大きな決断のあとも、できるところから手を動かし、次を選んでいく。身体に残った感覚を、別の場所で使い直す。
NORABIの青は、そうして品田さんが重ねてきた選択から生まれました。
すでにあるものを受け取り、少し先へ動かすこと。
香りにも、どこか似た働きがあるのかもしれません。
海での暮らしのそばにある Lei Incense Collection
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