「山と雲を渡る」自身初の個展に向けて|漆芸家 室瀬祐さん

室瀬祐さんが緑の見える工房で漆の器を手に取り、制作に向き合う様子

6月27日(土)からLei Gallery Tokyoにて開催される、漆芸家・室瀬祐さんの初個展「山と雲を渡る」を前にお話を伺いました。

漆という素材に向き合い続けてきた室瀬さんが、初めて単独での個展としてひらく場には、いまの感覚や視線がそのまま滲み出ます。

漆という素材の奥深さと、流れていくものに惹かれる感覚。
初めての個展を前に、いま室瀬さんの心の中を辿ります。

作家としての現在地を映し出す

窓辺のやわらかな光の中で、手元を見つめる漆芸家・室瀬祐さんの横顔

【室瀬祐(むろせ・たすく)】
漆芸家。漆という素材に宿る深さ、揺らぎ、光の気配に向き合いながら、静かな緊張と余韻をたたえた表現を探求する。2026年6月27日(土)、初個展「山と雲を渡る」を開催予定。

佐藤:初めての個展を前にして、いまどんな心境ですか。

室瀬さん:いろいろな気持ちが混ざっています。
でも、やっぱり楽しみです。そこは、はっきりしています。

個展という一人の作品による空間をつくること、そのために作品をつくりきることの重さを、日々感じてはいます。ただ、その大変さも含めて、何かに向かって準備している時間は刺激的ですし、充実していますね。

佐藤:今回の個展は、どんな場になると思いますか。

室瀬さん:良くも悪くも今の自分の状態がそのまま出る個展になると思います。初めての個展だからこそ、隠せないものがある。経験を重ねていけば、もっと整えて出していける部分もあるのかもしれません。

でも今回は、そういうものより先に、いま自分が持っている感覚や目指している方向性がそのまま現れる。

そこから逃げずに向き合いたいと思っています。

終わりがないという魅力

螺鈿のきらめきが浮かぶ漆の器を手に、制作に向き合う室瀬祐さんの手元

佐藤:室瀬さんにとって、漆はどのような素材ですか。

室瀬さん:幼少期から家族が漆の仕事をしていたので、ただそこにあるもので、何か特別なものと思っていたわけではありませんでした。でも、自分が成長して様々な人と関わる中で、これが当たり前ではないことがわかってきた。年を重ねるほど、漆の美しさや面白さ、技術の特殊さを教わっている感覚があります。

佐藤:その中で、漆に惹かれ続けている理由は、どこにあるのでしょう。

室瀬さん:美しいものは、世の中にたくさんあると思います。その中でも、漆は単純に美しいだけではない個性があります。人の手が加わり、またその技術が高まっていけばいくほど、それに応えてくれる素材なんです。

漆は一定の温度と湿度で硬化しますが、常に同じ条件で作業することは不可能で、だからこそ扱いづらい素材でもあります。簡単には思い通りにならない。でも、その難しさまで含めて、どこまでも追いかけていける。
そこに終わりはありません。

漆そのものが派手で美しいという訳ではないと考えています。ただ、この素材を通して、どこまでも美しさを突き詰めていける。つくる側の感覚や技術の精度が上がれば上がるほど、さらにその先を見せてくれる。
そこが、すごく面白いところだと思います。

美しいというのは、ただ整っているとか、綺麗に見えるとか、それだけではないと思います。その素材の性格や奥深さが、どこかで人の心を動かすのではないでしょうか。

漆は、そういう意味で個性がとても強い。
似たものが他にはないし、作品をつくればつくるほど、この素材でしかできない表現があると思わされる。
だから終わらないんですよね。

まだできるはずだ、もっと先があるはずだと思ってしまう。

それに、作品をとりまく空気によって見え方が変わります。表情が一つに留まらないところに、漆という素材の尽きない魅力があると感じています。

“流れていくもの”への興味

工房の窓辺に並ぶ漆の器と作品。やわらかな自然光の中で黒の器が静かに佇む様子

佐藤:「山と雲を渡る」という言葉も、そうした“留まらないもの”への感覚とつながっているのでしょうか。

室瀬さん:そうですね。ここ数年、自分が惹かれてきたものを辿っていくと、ずっと“流れていくもの”のほうへ向いていた気がします。

まず思い浮かぶのは、水です。雲になり、雨が降り、草木を伝い、川になって海へ向かう。またそこから立ち上がって、雲へ戻っていく。かたちを変え続けながら、ずっとつながっている。そういう循環の中にあるものに、自分は惹かれてきました。

植物の葉が好きなのも同じで、新芽の時期があり、盛りがあり、色が変わり、やがて落ち、朽ちていく。移ろいそのものに惹かれているのかもしれません。

雲も同じです。常に流れ、形を変えながら、見る側の感情まで映してしまうようなところがある。楽しいときに見る雲と、悲しいときに見る雲では、同じ空でもまったく違って見えることがある。その曖昧さにも、ずっと心を惹かれてきました。

水もその場に留まれば淀み、流れれば澄んで命を育むことができる。その感覚は、自分が見たいもの、つくりたいものとも、かなり深いところでつながっている感覚があります。

佐藤:今回の個展を梅雨の時期である6月に開くことも、そうした感覚と重なっていますか。

室瀬さん:はい。自分の仕事は、雨と相性がいい気がしているんです。一般的には避けたい天気として捉えられがちですが、僕はむしろ好きなんですよね。
湿度を含んだ空気の中で見る漆には、乾いた季節とは違う印象があります。輪郭が強く立つというより、少し滲みながら漂ってくる気配がある。

今回の個展も、そうした気配が自然に感じられる時期に開きたいと思いました。

感覚を持ち帰る

手のひらに載せた装飾的な漆の器に道具を当て、細部を整える制作の手元

佐藤:会場では、どんなふうに作品に触れてほしいですか。

室瀬さん:あまり構えずに見てもらえたらいいなと思っています。伝統とか文化とか、難しい概念を先に置くのではなく、まずは目の前にあるものとして受け取ってもらえたら嬉しいです。

それを見たときに、落ち着くなとか、ずっと見ていたいなとか、少し心が澄んでいく感じがするとか。そういった感覚のほうが、ずっと大切だと思っています。
知識として理解してもらうことよりも、その人の中で何が起きるかに興味があるんです。

佐藤:自分の感覚で受け取る、ということですね。

室瀬さん:そうですね。見ているあいだに、自分の感情がどう動くのか。何を思うのか。何が残るのか。
それを、それぞれに感じてもらえたらと。

綺麗だと思うだけでもいい。少し怖い、でもいいかもしれない。自分の中で起きたことを、そのまま持ち帰ってもらえたら嬉しいです。

※室瀬さんは、Lei In Praise of Shadows Flagship Store内天板の拭き漆監修も手がけています。

個展情報

初個展「山と雲を渡る」は、2026年6月27日(土)より、Lei In Praise of Shadows Flagship Storeにて開催予定です。

展覧会名:室瀬祐漆芸展「山と雲を渡る」
開催期間: 2026年6月27日(土)〜 7月4日(土)
会場 :Lei Gallery Tokyo 
住所:〒151-0064
   東京都渋谷区上原1-30-12 UEHARA TERRACE 1F
営業時間:11:00〜19:00(最終日は17時まで)
作家在廊:全日程在廊予定
入場 :無料(作品は展示販売)

室瀬祐の在廊に寄せて

Lei Gallery Tokyoでは体験をお持ち帰りいただく場所として、作家との対話、コミュニケーションを大切にしております。そのため以下ご予約フォームをご用意しております。

2026年6月27日~2026年7月4日はご予約がなくても入場可能です。
以下フォームは在廊作家より、直接ご案内をご希望のお客様のためのご予約制度となります。ぜひ、皆様お気軽にお越しくださいませ。

混雑が予想されるため、第1〜第3希望をすべてご入力ください。
※ こちらは申込であり、ご予約の確定ではございません。後日、当方よりご返信のうえ確定とさせていただきます。
※ 室瀬による直接のご案内をご希望の場合、お一組あたり15分程度を予定しております。メッセージ欄にその旨ご記入ください。

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この記事を書いた人

Nobuaki Sato

Brand Manager of Lei
He was born in Kanagawa, Japan.
A polyglot fluent in Japanese, English, Italian, Spanish, French, and Portuguese. Lived in Italy and Spain to play Football. Joined Lei in 2022 after being inspired by Lei00

・Hobbies: Football, Padel, Movies, Reading, Anime, Running
・Favorite Music: Cumbia, Pop, Classical Music
・Favorite Manga: Slam Dunk, HUNTER HUNTER
・Favorite Athletes: Totti, Messi, Andy Hiraoka
・Favorite Alcohol: Sake, Wine, Aperol Spritz
・Favorite Foods: Oyakodon, Yakitori, Pasta, Asado
・Favorite Materials: Lacquer(Urushi) , Aluminum, Glass, Wood