運を拾い、店をつくる|飲食店経営者・橋本淳平さん

Lei Journal

語られない背景。
明るさの裏側にあるもの。

静かな重心を持つ人や空間に目を向けることで、はじめて見えてくる価値があります。

Lei Journalでは「陰翳礼讃」という考え方を手がかりに、人、空間、仕事の在り方を記録していきます。

DOT EIGHT COMPANY株式会社代表 橋本淳平さん インタビュー

錦糸町のフーフー飯店の外観。赤い看板と暖簾、通りを横切る人の動きが重なる様子

ラーメン屋「双麺」や町中華「フーフー飯店」など、東京を中心に複数の飲食店を展開する橋本淳平さん。

話を聞いていると、料理や売上の話よりも先に、人の気配の話が出てきます。
どこで居心地が崩れるのか。どこで少し緩むのか。

その見方が、店のかたちになっていくようでした。

店に残る、時間の気配

コンクリート壁の前に立つ橋本淳平さんの横顔ポートレート。キャップと眼鏡を着用したモノクロ写真

【橋本淳平(はしもと・じゅんぺい)】
DOT EIGHT COMPANY株式会社代表取締役社長。ラーメン業態「双麺」、中華業態「フーフー飯店」などを展開。現場で培った感覚をもとに、立地、業態、空間、人の動きを見ながら店づくりを行っている。

佐藤:事業内容を教えてください。

橋本さん:現在はラーメン屋と中華をメインに飲食店を経営しています。双麺というラーメン屋を3店舗、フーフー飯店という町中華を2店舗運営しています。

佐藤:ラーメンと町中華で、業態は違いますよね。

橋本さん:そうですね。でも軸は変わりません。ラーメンでも中華でも、お客さまがどのような時間を過ごすか。そこを大切にしています。

たとえば、カウンターでラーメンを作っていても、少し離れたテーブルの空グラスの音が聞こえる。「あ、あそこ空いたな」と分かった瞬間に声をかける。

お客さまが声を出す前に気づけるか。料理の味も大切ですが、そういう細かなところが居心地を決めると思っています。

佐藤:客席全体を見ている。

橋本さん:そうですね。料理だけ見ていたら、店は回りません。

お客さまの座り方、グラスの音、箸の動き、空気の変わり方。そういうものをずっと見ています。フーフー飯店でも同じです。町中華という業態ですけど、ただ餃子やラーメンを出しているわけではありません。

瓶ビールを飲んで、餃子を食べて、少し酔って、最後に麺で締める。そういう時間を、途切れることなく楽しんでもらいたい。家で食べられるものを、わざわざ外で食べてもらうわけですから。

そこには、味だけでは残らない時間が必要だと思っています。その人が店を出た後に、少し気分が変わっていること。そこまで含めて外食の体験だと考えています。

マリブの海辺で、決めたこと

暖簾に「双麺」とロゴが描かれた夜の店舗入口。柔らかな光が奥から漏れる様子

佐藤:飲食の道に進んだきっかけを教えてください。

橋本さん:人とのご縁ですね。飲食業界で働く前は、介護の仕事をしていました。介護業界で働いている時に義手や義足に興味を持って、義手を作る職人になろうと思って専門学校にも通いました。

その時にアルバイトしていたのがラーメン屋だったんです。実際に進路を決めるタイミングで、その道で働いている人の話を聞いた時に、結婚して子どもを育てながら続けるのは難しいなと思って。それで、アルバイト先のラーメン屋に就職しました。

佐藤:独立を決めたのは、ロサンゼルスだったとか。

橋本さん:ラーメン屋で働いて4年経った30歳の年に、ふと「俺の人生このままでいいのかな」と思ったんです。社内貯金を全額下ろして、ひとりでロサンゼルスに行きました。 飛行機とホテルだけ取って、あとは何も決めていない。英語もできないし、海外もほとんど知らない状態でした。でも、不思議と怖さは感じませんでした。空港に降りた瞬間、自分を試してみたい気持ちが湧き上がってきた。全部知らない。その感じが、すごく面白かったんです。

マリブの海辺で、タバコを吸っていた時。海を見ながら、ふっと思いました。
人生は一回しかないなって。だったら、独立してやろうと。

それまで、ずっと考えてはいました。でも、考えているだけで、どこか先延ばしにしていた。

知らない場所に一人で行って、何とかなる感覚があったんでしょうね。ここまで来られたなら、自分で店をやることもできるんじゃないかって。帰国してすぐに、社長に伝えました。「1年後に独立させてください」と。

佐藤:そこから双麺につながっていく。

橋本さん:最初は、小さな場所を借りて、自分の力だけで始めようと思っていました。でも、独立するタイミングで、当時任されていたラーメン屋をそのまま引き継がないかという話をいただきました。最初は迷ったんです。自分ひとりの力でやりたいという気持ちもあったので。

佐藤:それでも、受けることにした。

橋本さん:はい。社長が、会社のお金ではなく、個人としてお金を投資してくれたんです。それは、自分の力を信じてくれているということだと思いました。これはもう、自分だけのものではないな、と強く感じましたね。

売上を上げるだけではなく、最高の店をつくって倍返ししたかった。店をもらったというより、信頼を預かった感覚に近かったですね。

街の流れを読み、次の場所へ

双麺の店舗外観。白い暖簾とガラス越しの店内、緑のタイルが印象的な昼の入口

佐藤:双麺として独立された後、店舗を増やしていく中で、街を見る感覚も変わっていったのでしょうか。

橋本さん:そうですね。最初の双麺は錦糸町でした。独立した頃、ちょうどスカイツリーができていく途中だったんです。まだ街の印象も今とは違いましたけど、あれが完成したら人の流れは変わると思っていました。若い人も来る。外国の人も来る。錦糸町という街の見え方も変わる。

その時に、立地と街の変化を見る感覚はかなり掴めたと思います。

佐藤:店単体ではなく、街の変化を見る。

橋本さん:そうです。どんなにいい店でも、場所と業態が合っていなければ続かない。逆に、街の変わり目に合う店を置ければ、流れに乗れる。その感覚があったから、店舗を増やしていく時も、場所を見るようになりました。

佐藤:その後、浅草橋にも出店される。

橋本さん:2020年の1月に、双麺の浅草橋店をオープンしました。でも、その直後にコロナが始まってしまったんです。飲食店にとっては、かなり厳しい時期でした。時短営業もあったし、人も街から消えた。しかし、必ず人の流れが戻ってくるという確信が自分の中にあったんです。

佐藤:その感覚がフーフー飯店につながっていく。

橋本さん:そうです。あの時は、はっきり分かれていました。やめる人。借りて様子を見る人。借りて動く人。自分は三つ目でした。 借りられる満額を銀行から借りて動くと決め、今のフーフー飯店の物件を契約しました。怖かったのは、借金そのものではなく、止まることでした。
止まってしまうと、感覚が鈍る気がしたんです。

佐藤:そこから、町中華という業態へ。

橋本さん:最初から町中華をやると決めていたわけではありません。物件を契約した時には、気持ちだけがあった状態でした(笑)。自分たちの軸はラーメンだったのですが、場所と人の流れを考えた時に、ラーメンだけではないなと思ったんです。

新しいスタッフも採用したタイミングで、福岡へリサーチに行きました。アイディアが浮かばずにスタッフと飲んでいた時、餃子やつまみと瓶ビール、最後にラーメンを食べた時に「これだ!」と思ったんです。

料理というより、その流れがしっくり来ました。そこで、日本の中で育ってきた町中華の時間を、自分たちなりにアレンジして出せないかと考えました。

そこから、フーフー飯店が生まれました。

居心地の悪さを、ひとつずつ消していく

フーフー飯店錦糸町店の店内。カウンター席と厨房が一体となったコンパクトな空間

佐藤: 伺わせていただいたフーフー飯店の空間は印象に残ります。SNSでも話題になっていましたよね。

橋本さん:最初にあったのは、いい空間をつくろう、ではなくて「なんか居心地悪いな」を減らそうという考えでした。たとえば、テーブルで飲んでいるお客さんが、上着を膝に置いたまま食べているとか、足元に荷物を寄せて少し窮屈そうにしているとか。そういう小さい違和感が、ずっと気になっていて。

どうすれば楽になるかだけを考えていたら、上が空いていることに気づいて、棚をつけた。やっていることはそれだけです。

佐藤: 結果として、あの空間ができた。

橋本さん:そうですね。写真や動画を撮っていただけるようになりましたが、見た目をつくったという感覚はないです。居心地の悪さを消していったら、ああなっただけ。

佐藤:見た目の印象より先に、身体の居心地を見ているんですね。

橋本さん:そうです。荷物が気になったり、服が気になったりすると、意識がそっちに持っていかれるじゃないですか。そうなると、目の前の料理とか、一緒に来ている人との時間から少し離れてしまう。だから、まず気が散るものをなくしたかったんです。

佐藤:食事の時間に戻すために。

橋本さん:そうですね。お客さんが、余計なことを考えなくていい状態をつくりたい。荷物をどこに置くか、服が汚れないか、そういうことを考えなくていい。その方が、しっかりとその場に没頭できると思うんです。

気づいたものだけが、形になる

佐藤:今のお話を聞いていると、お店でも経営でも、見ているものは同じですね。

橋本さん:そうですね。結局、やっていることは変わらないと思っています。小さな引っかかりに気づいて、それをそのままにしないこと。店では、グラスの音とか、座り方とか、ちょっとした変化を見ています。街でも同じで、人の流れとか、空気の変わり方を見ているだけです。

佐藤:日常の中にある変化を拾う。

橋本さん:はい。ただ、気づくだけでは何も起きない。気づいた時に、動くかどうか。錦糸町の時もそうでした。スカイツリーができて、人の流れが変わるだろうなと思った。
でも、それを見ているだけでは意味がないので、そこに入りました。

佐藤:見えたものに対して、取りに行く。

橋本さん:そうです。チャンスって誰の前にもあると思うんです。
ただ、それを拾えるかどうか。拾っても、そのままにするのか、形にするのか。
そこまでやって、初めて残るものになる。

佐藤:行動の積み重ね。

橋本さん:そうですね。自分は運がいいというより、見たものに対して反応し、行動してきただけだと思っています。待っていても、何も残らない。取りに行ったものだけが、残るんだと思います。

炎をともし、ゼロへ戻る

橋本淳平さんがnon electric aroma diffuserのキャンドルに火を灯す様子。室内の棚の上で香りの準備をしている風景

佐藤:最後に、普段使ってくださっているLei non electric aroma diffuserについても伺わせてください。どんな時に使っていただいていますか?

橋本さん:朝に使っています。僕は神棚に手を合わせる習慣があるのですが、その前にnon electric aroma diffuserのキャンドルに火をつけて、プロペラが回るのを待つ時間を取っています。回り始めるまでの時間が心地よくて。

佐藤:どんな感覚ですか。

橋本さん:一回止まる感じがするんです。ずっと仕事のことを考えながら動いているので、頭の中が仕事で埋まりやすい。だから一回頭をゼロに戻す感覚で、プロペラを眺めながら香りを感じています。習慣になりました。

香りも好きですが、この“間”と所作が気に入っています。マッチ火をつけて、プロペラが回るまでゆっくり待つ。そして、優しい香りの広がりを感じる。そうすると、1日が気持ちよく始まるんです。

編集部ノート

気づく人は、動き続ける。
橋本さんのお店は、その延長にありました。

違和感を拾い、削る。
それが空気を作るのかもしれません

橋本さんさんの日々を0へと戻す non electric aroma diffuser

橋本さんInstagram:https://www.instagram.com/jumpei_hashimoto.8/
双麺Instagram:https://www.instagram.com/somen_kinshicho/
フーフー飯店Instagram:https://www.instagram.com/fu_fu_hanten/

この記事を書いた人

Nobuaki Sato

Brand Manager of Lei
He was born in Kanagawa, Japan.
A polyglot fluent in Japanese, English, Italian, Spanish, French, and Portuguese. Lived in Italy and Spain to play Football. Joined Lei in 2022 after being inspired by Lei00

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