語られなかった背景。明るさの裏側にあるもの。
そうした部分に目を凝らすことで、はじめて立ち上がる価値もある。
Leiは、「陰翳礼讃」という考え方を通して、ものや空間だけでなく、ブランドや人の在り方にも向き合っていきたいと考えています。
私たちのインタビュー記事では、その思想に共鳴するブランドや人々の仕事、そして生き方を、静かに掘り下げていきます。
床屋の家系122年。男の居場所を、理容と美容の“間”に作る

横浜にある男性専用サロン「Barbiere」のオーナー竹内稔さんは、明治37年から122年続く床屋の家系に生まれながら「床屋になりたくなかった」と言います。
しかしある時、床屋は“古い仕事”ではなく、自分の手で再編集できる技術だと気がついた。
Barbiereは、床屋と美容の間を取りバーのように会話が生まれる、男の居場所。技術だけで終わらせず、空間そのもの設計について静かに語っていただきました。
Barbiereという「男性の居場所」を作った理由

【竹内稔(たけうち・みのる)】男性専用ヘアサロン「Barbiere」オーナー。床屋の家系122年に生まれ、理容の確かさに美容の感覚を重ねた“理容と美容の間”のサロンを構想。会話が生まれる居場所としての空間づくりを追求している。
佐藤:はじめに「Barbiere」という場所について、聞かせてください。
竹内さん:男性専用ヘアサロンです。仕事場でも家でもない、男性が定期的に行ける場所を作りたかったんです。家族でも身内で仕事の人でもない、でも気兼ねなく顔を合わせる関係がある、というような感じでしょうか。
佐藤:髪を切る場所、というより空気の作り方に意図を感じます。
竹内さん:ただ髪を切るだけだと、どうしても“作業”になってしまう。その中でも、会話が生まれる余地がある方が、結果として居心地よく感じていただけるかなと。
佐藤:内装に、少し“バー”の雰囲気を感じます。
竹内さん:お酒は飲まないんですけど、飲みの場の空気は好きなんです。先輩に連れて行ってもらうと、2軒目3軒目でバーに行くことがあって。あの、そこでしか出ない話しがある感じがいいなって。社交場っぽい雰囲気を、店の中に置きたかったんです。
佐藤:社交場?
竹内さん:対話が主役になれる場所にしたい。髪を切る時間って、人の心が“ほどける”ので。お客様ひとりひとりと向き合いたいと思っています。
床屋の家系122年というルーツ|だけど「床屋になりたくなかった」

佐藤:何がきっかけで、髪を切る道へ進むことに?
竹内:父親の実家が、ひいおじいちゃんの代から床屋なんですよね。祖父母が千葉の木更津から横浜に来て、床屋に修行に出た後、自分で店を構えたそうです。明治37年からの歴史があります。物心ついた時から、身近にあるのが床屋でした。
佐藤:明治37年。
竹内さん:昭和29年ぐらいからは「竹内理容館」って名前で続けていました。今は長男が亡くなって廃業したんですけど、ルーツとしては122年。自分たちが4代目の世代で、いとこも含めて3人が店を持っています。
佐藤:家系として“理容が普通にある”環境だったんですね。
竹内さん:家系的にはみんなそうなのですが、当時の僕からすると、全くもう論外だったのが「床屋」でしたね(笑)。周りから「床屋の息子は将来床屋になるんでしょ」みたいに言われるのがすごく嫌で。やりたくない仕事ナンバーワンでした。
理容の魅力に気づき、やりたいことが決まった

佐藤:やりたくない仕事ナンバーワン(笑)。そこからどのような出来事があったんですか?
竹内さん:工業高校を卒業したのですが、ちょうど就職の時期に工業系の仕事で当時興味を持てるものが全然なかったんです。興味ない仕事について中途半端に辞めるぐらいなら、専門学校に行って、とりあえず手に職つけるのが無難かなという半ば後ろ向きな選択で理容師専門学校へ。
佐藤:その中で床屋の魅力に気がついたのでしょうか?
竹内さん:そうですね。実際に勉強してみると興味を持てるところが出てきました。当時はカリスマ美容師ブームだったので、床屋に美容室の要素を入れた新しい提案をしてみたいな、という漠然とした気持ちが芽生えていましたね。
専門学校卒業後は、床屋としての技術を高めつつ美容室の情報を仕入れられるよう、床屋と美容室を経営している会社に就職しました。基本は床屋で働き、ヘルプで美容室に行くような感じで。
佐藤:それが今のBarbiereのスタイルに繋がっていくんですね。
竹内さん:そうですね。そこで美容室と床屋の違いについても学ぶことができました。美容師は、ビジネス的な考えが強い方が多く、回転率や集客を重視している印象でした。床屋は、黙って技術を磨きお客さんを定着させる、というシンプルなことをしているように映って。今とは変わっていることもありますが、スタンスや美容の考え方の違いも勉強になりましたね。
Barbiereが「理容と美容の間」を取りにいく理由

佐藤:“男性向け”というと、いわゆるゴリゴリのBarberも多いですが、竹内さんはそこに寄せてないですよね。
竹内さん:自分のルーツは床屋ではあるものの、時代に合わせて美容室の優しい雰囲気も取り入れたかった。なので、ゴリゴリのアメリカンBarberのイメージとは趣向が少し違ったんですよね。床屋と美容院の“間”を取れるような環境を作りたかったんです。
佐藤:なぜ床屋と美容室の「間」を取りたいと思ったんですか?
竹内さん:床屋の「男臭いかっこよさ」みたいなものはあると思っていて、ただ時代的にそこの魅力だけでは長続きさせるのは難しい感覚がどこかにありました。ただ、オシャレな内装にして優しい雰囲気にしすぎてしまうと、逆に入りにくくなってしまうこともあるなと。
そこで、床屋と美容室の「間」を取ったお店を作ろうと。
重心は床屋に置きながら、美容室的な要素をどこまで入れるかが重要な判断ポイントでしたね。独立を決めてからは、休みの日に様々な男性専用サロンを周り、自分のスタイルに合うところを研究していました。
佐藤:サロンとして、どんなところを目指されていますか?
竹内さん:技術だけで終わらず、Barbiereで過ごす時間そのものを満足いただく「居心地の良いサロン」として運営し続けたいですね。結局のところ、人が集まる最大の要因は“技術”ではない気がするんです。お店の雰囲気や、カットする人の接客、生きざま、そこに通っている人たち、全てが重なって「ここに行きたい」が生まれると思っています。技術は皆ある程度高いレベルで持っていますが、違いを作るのは技術以外の部分なのかなと。
サロンでの体験をトータルで考える

佐藤:Lei card diffuserをご利用いただきありがとうございます。サロンに香りを入れようと思った理由を教えてください。
竹内さん:お客さまがサロンにいる時間の体験を考えた時に、良い香りを取り入れるのも大事な要素だと思いました。ひとつ香りものがあるだけで、お客様の表情が緩むのも感じられますし、自分が接客していてもリフレッシュできる感じがしています。
佐藤:香りものは沢山あると思いますが、なぜLeiを?
竹内さん:インテリアとして空間に合うなと感じたところが大きいですね。
和紙を差し込み、そこから香りを楽しめるというのも唯一無二な感じがして。
Citrus Woodの香りが好きなのはもちろんですが、視覚的にも楽しめるところに惹かれました。
佐藤:竹内さんにとって「香り」 とはどんなものですか?
竹内さん:過ごしやすさを左右するものですかね。目に見えないものですが、直接的に記憶に残る。どんなに良い空間でも、匂いが台無しにしてしまうこともあります。反対に、完璧な空間でなくても良い香りが気分を上げてくれることもあります。シンプルですが、大事にしているポイントです。
佐藤:本日はインタビューありがとうございました。
Barbiere
所在地:〒241-0836 横浜市旭区万騎が原34-8
Instagram:https://www.instagram.com/barbiere_minoru/
編集部ノート
理容と美容の“間”に置かれた距離感が、Barbiereの空気をつくっていました。
技術の確かさの上に、会話の温度と、滞在の静けさが重なります。
お店を出たあとに残る感覚が、そこにはありました。
