Lei Journal
語られない背景。
明るさの裏側にあるもの。
静かな重心を持つ人や空間に目を向けることで、はじめて見えてくる価値があります。
Lei Journalでは「陰翳礼讃」という考え方を手がかりに、人、空間、仕事の在り方を記録していきます。
プロパデルプレーヤー 五味 亮将さん インタビュー

勝つことだけが、続ける理由になるとは限りません。できないことの前で立ち止まり、負けたあとに残った問いを抱えたまま、それでも前へ進んでいく。
プロパデルプレーヤー 五味亮将さんの言葉には、結果を追う鋭さと、その先を見つめる静かな重心がありました。
できないことが、前に進む理由になった

【五味亮将(ごみ・りょうすけ)】
プロパデルプレーヤー。ガラス壁を使って展開するラケットスポーツ「パデル」を舞台に、競技と普及活動を重ねながらキャリアを築く。大学職員として働いたのち、2023年にアスリートへ転身。海外での挑戦も重ねながら、勝利の先にある価値を問い続けている。
佐藤:今の活動について伺わせてください。
五味さん:プロパデルプレーヤーとして活動して2年目になります。プレーに加えて、普及活動や指導も行っています。それまでは大学職員をしながら今の活動も続けていたので、三足のわらじのような状態でした。
佐藤:大学職員をされていたんですね。
五味さん:入試広報や入学試験の運営、高校に向けた大学のPRなどを7年ほどしていました。学生の頃から、誰かの成長の土台になることにはずっと興味があって。自分が前に立つというより、環境を整えたり、エネルギーを渡せる人でありたい感覚があったんです。
佐藤:パデルとの出会いはどのようなものだったのですか?
五味さん:知り合いがパデルをやっていて、その世界を見てみたいと思ったのがきっかけでした。最初は「一回やってみるか」くらいだったんですけど、実際にやってみたら全然できなくて。壁があることで感覚がまったく違うし、後ろからボールが来るだけで、テニスとは別の競技になるんです。
佐藤:最初に残ったのは、面白さでしたか、悔しさでしたか?
五味さん:悔しさですね。初回で年上の方に負けて、自分ができないことが目の前に現れた感覚がありました。上手くできなかったからこそ火がついて、まだできないものの方に強く惹かれるんだと思います。
あの一球のあとで、問いが残った

佐藤:そこから、一気にのめり込んでいかれたんですか?
五味さん:最初は趣味でテニスと並行していたんですが、だんだんパデルに使う時間の方が増えていきました。新しい人とも出会えるし、新しい技術も身につく。その感覚がすごく面白かった。始めてまもない頃、当時の日本代表の方にダブルスの試合に誘っていただいたのがきっかけで、自然と選手の道に入っていきました。
佐藤:その後、五味さん自身も日本代表になられていますよね。
五味さん:回数を重ねるごとに上達を感じるのが楽しくて、夢中で取り組んでいたら、その延長に日本代表があった感覚でした。
でも、プロとして競技に専念することを本気で考え始めたきっかけは、負けた時だったんです。
佐藤:どのような場面でしたか?
五味さん:2021年、日本代表としてアジア予選に出た時です。決勝戦の大事な場面で、自分が手を出さなければいけない球に手を出せなかった。流れが変わって、試合も落として、世界大会にも行けなかった。何ヶ月も、「なんであの時、手を出さなかったんだろう」と考えていました。
佐藤: そこから、何か変わるきっかけはあったんですか。
五味さん: 「なんで今パデルをやっているの?」と聞かれたんです。その時、日本代表として勝つことは大きな目標だったけれど、それと、自分が本当にやりたいことは同じなんだろうかと初めて考えました。考え続ける中で見えてきたのは、見てくれている人や応援してくれている人に、元気や活力、次に進む一歩のようなものを渡したい、という感覚でした。
自分が成長できる場所に、自分を置く

佐藤:その問いが見えてきたあと、会社員を辞めて、プロとして競技に振り切る決断につながっていくんでしょうか。
五味さん:はい。自分の中には、将来的に選手育成をしたいという思いがあります。パデルプレーヤーとしてだけではなく、人としても育っていく、その過程に関わりたい。そう考えた時に、選手としての経験も、指導者としての経験も、海外でトップの環境に身を置く経験も、全部必要だと思ったんです。
会社員を辞めることは一番のリスクでしたが、一番得られるものが大きいのは、プロとして競技に振り切ることだと思いました。
自分が世界レベルを体感し続けないと、伝えられるものが薄くなってしまう。自分より後の世代に良い形でバトンをつなぐためにも、自分ができる経験はすべてやってみたいと思ったんです。
佐藤:選手として強くなることと、その先で誰かに渡していくことが、ここでつながってくるんですね。
五味さん:そうですね。自分の中では、競技に専念すること自体がゴールではなくて、その先に何を残せるかのための選択だったと思っています。
スペインで知った、“技術の先”にある差

佐藤:そうして競技に振り切ったあと、パデルの本場であるスペインに渡られたんですよね。
五味さん:そうです。ワーキングホリデーでバルセロナに行って、丸一年いました。行く前は、スペインで得たものを日本に持ち帰れば、何かを大きく変えられるんじゃないか、という気持ちもあったんですけど、実際に行ってみると、そんなに単純ではなかったですね。
佐藤:スペインでの経験の中で、何に一番大きな影響を受けましたか?
五味さん:“技術があれば勝てるわけじゃない”ということを、深いところで突きつけられました。日本人って、ショットはいいし、動きも速い。でも勝てない。その理由を、スペインで初めてしっかりと見た気がしました。
自分が打った一球に対して、相手がどう返してくるか、その先まで見えていることです。ただいい球を打つだけじゃなくて、相手にセオリー通りの返球をさせないように仕掛けていく。強い選手ほど、その精密さと再現性がすごく高いんです。
技術の差というより、“何を起こさせるか”考えた上で行動をとる、ということの差なんだと思いました。
佐藤:それは、かなり本質的ですね。相手とどう関係をつくるか、という話にも聞こえます。
五味さん:そうなんです。そこで、これって人生とかコミュニケーションも一緒なんじゃないかと思いました。自分の行動が相手にどう影響するかを見ながら、少しずつ調整していく。その感覚が、競技だけじゃなく、人とのやりとりにもつながって見えました。
佐藤:スペインでその差を見たあと、日本に戻ってきた今、取り組み方は変わりましたか。
五味さん:変わったと思います。前は自分が上手くなることそのものに意識が向いていたんですけど、今は自分の一つひとつのプレーが相手に何を起こさせるか、という見方で練習することが増えました。
ただ技術を積み上げるというより、どういう状況をつくるか、どういう選択を引き出すか、というところまで含めて考えるようになりました。
香りが、視線を戻してくれる

佐藤:最後に、Leiのお香のことも伺わせてください。五味さんにとって、Cashmere Muskはどんな存在ですか。
五味さん:忙しかった日の夜とか、少し心が揺れた夜に焚くことが多いです。何かを無理やり切り替えるため、という感じではないんですよね。焚いていると、目の前の出来事だけに閉じていた視線が、少し遠くに戻る感じがあるんです。
佐藤:“遠くに戻る”というのは、どういう感覚でしょう。
五味さん:自分が行きたいと思っている世界とか、これからつくっていきたいものの方に、目を向け直せる感覚です。そうすると、いま起きていることも、そこにつながっているよねって思える。
もちろん、それで何かがすぐ解決するわけじゃないんですけど、悪いことがあった日を、そのまま悪い一日として閉じなくて済むというか。次に進める終わり方ができる感じがあるのが好きですね。
佐藤:本日はインタビューありがとうございました。
編集部ノート
できないことに惹かれ、負けたあとに問いを抱え、その先でなお進み続ける。
五味さんの言葉には、強さそのものよりも、強さがどこへ向かうのかを見つめる静けさがありました。
立ち止まり、自分の感覚を整え、もう一度進む方向を見つめ直すこと。
香りもまた、“進む前に自分へ戻る”ための静かなきっかけなのかもしれません。
※パデルは、壁を使ってプレーするラケットスポーツ。ヨーロッパや中南米を中心に広がり、日本でも競技人口が増えています。
五味さんが、揺れた夜に手に取る香り
五味さんInstagram:https://www.instagram.com/padel_gomichan/
